見上げるような石造りの塔、窓が見えています。
足首までの白布をまとった娘、
粗末なベットがひとつあるだけの部屋。
石に縁取られた窓の外を、じっと見つめる娘の背後には
鉄格子がはまっており、
生きるのに必要なだけの食事が運ばれてきます。
母親が泣いています。
この年頃の娘であれば、着飾って
女としての身を謳歌しているはずなのに、 と。
「いいえ、お母様。 嘆く必要はないのです。
わたしは 幸せです。
命ある限り、ここからの眺めを映すことが 許されているのですから」
下界に広がる豊かな景色に 穏やかなまなざしを運ぶ娘。
農夫の日常を 丁寧になぞり
黄金色に染まる実りの光景に こころ躍らせ
地上から空へのグラデーションを 仰ぎ見る
この窓が開いている限り
わたしは ただ 幸せなのです。
夜、目を閉じるのを惜しむように ベットに横たわり、
朝、目覚めると 窓辺に立つ日々・・・
それを止める人がいないことも、幸運に思いながら・・・
「最も不憫な娘」 と、村人はささやき、
「代わってあげたい」 と、母親は泣くのをやめないけれど、
娘の横顔は、平安で、
瞳は、刻々と移り変わる光を 宿しています。
しだいに、背景と娘が溶け合い
石壁にはめ込まれた 一枚の「美しい絵」 のように 立ち上がってくるのです。
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