敷居をまたぐように世界を移る･･･

あなたが今いる部屋の隣には、部屋があり、そのまた隣り合わせで部屋があります。

 

四季折々の庭園が望める大きな日本家屋を思い描いて下さい･･･

四畳半、８畳、１０畳、１２畳･･･いくつもの間のふすまは開け放たれ、遠くまで見渡せます。

 

あなたは、庭がよく見える部屋でひとり、横になっています。

咳がときどき出てきます･･･

 

ふと、どこからかピアノの音が聞こえてくるのです。

 

家にピアノなんてなかったもの･･･と思いますが･･･

あなたは、その音がする方へ足を運び、いちばん向こうの部屋の一角のふすまをそっと開けました。

 

その部屋は、あなたのまだ見たことのない洋風のしつらいの部屋でした。

ピアノの蓋があいたまま･･･誰かがさっきまでそこにいたような気配です。

 

紅茶の香り･･･ポットもまだ温かい。

読みかけの本もあるのです。

 

窓辺のレースのカーテンが膨らんで、いい風が入ってきます。

 

あなたはその部屋が気に入りました。

その部屋の住人になります。

 

ある日、あなたがその部屋で過ごしていると、どこからか咳き込む声が響いてきます。

あなたは、その声の主を元気づけたくって、カラダが少しでもラクになるようピアノを鳴らし始めました。

 

「だいじょうぶよ。･･･あなたは一人じゃない･･･」

自分が奏でる曲は、あの時聞こえてきた音に似ていました。

 

「･･･そうか、そういうこと･･･？」

あなたは、ちょっと前の自分がこの音に魅かれてここに来ることを知っていました。

 

あなたは、椅子から立ち、そのうちここに来る自分のために部屋を空けました。

びっくりさせたくなかったから･･･あの時の自分にこの部屋でゆっくりしてもらいたかったのです。

 

あなたが次の部屋に移った時･･･その部屋に現れた自分がいました。

 

今いる世界と、隣り合わせの豊かな世界があります。

もし、今のところよりもその世界に魅かれるなら･･･敷居をまたいでその部屋でお過ごしください。

 

世界を変えることは、そのくらい簡単なことかもしれません。

 

ピアノがある部屋の主は、追い出されたのではありません。

その部屋で癒されたあなたは、次の部屋･･･今度は犬のいる部屋に移ったかもしれないのです。

 

いつか飼ってみたいと思っていた犬。

その犬も、あなたが気づかなかっただけで、すでにあなたの家にいてあなたが現れるのをずっと待っていました。

 

部屋に一歩足を踏み入れたとたん、犬が引きちぎれんばかりにしっぽを振って迎えてくれます。

こんなかわいい存在がいたのかと、あなたはその子と夢中になって遊びます。

 

そのうち、その子は散歩に行こうと誘ってきます。

「行こうか」あなたも、玄関の戸をすべらせて外の世界へ足を踏み出します。

 

家と外も隣り合わせです。

あなたの世界と大きな世界も、繋がっているのです。

 

そこには壁はなく、なめらかなふすまと横引き戸があるだけ。

 

あなたが知らないだけで、あなたの家はとても大きいのかもしれません･･･全部探検しつくせないくらいに。

平屋だと思っていただけで、もしかしたら、2階、３階･･･塔になっているのかも･･･（笑）

 

観たい景色を、観ていいのです。

自分の家の隣にも、大きな邸宅が並んでいるのに気づくかもしれません。

 

世界は、繋がっています。

 

隣りにある豊かな世界に、またいでいきませんか？